コラム


My Sonic Lab のこだわり! ● 特殊コア材「SH-μX」誕生秘話 ●

「Source インピーダンスは低く・出力エネルギーは高く…!」

My Sonic Lab が低インピーダンス型MCカートリッジの開発にこだわっているのは、「カートリッジは発電機なんだから、インピーダンスは低くしないといかんのだヨ!」と、かつての大先達である故・岡原 勝氏から指摘された頃からで、それは、1960年代半ば頃の事でした。
しかし、内部インピーダンスを下げると言うことは、コイルの巻き数を減らす事であり、出力電圧の低下に直結するためその解決策が見つからなかったのです。
以来、カートリッジを設計する度に低インピーダンスで高出力を維持する方法が課題として残っていたのです。
ところが70年代も後半になってマーク・レビンソンのロー・ノイズ・プリアンプ「LNP−2L」が話題になった頃、M・レビンソン氏が「低インピーダンスで出来るだけ出力電圧の高いMCカートリッジを探している!」と言う話をある関係者から聞かされ(真偽のほどは確かめてないが)、「そんなカートリッジは出来ないものかネ?」とその関係者が言うのです。
「あのロー・ノイズのアンプでは半導体の内部雑音が気になるので、入力信号は少しでも高く欲しい・!」という訳です。
当時は「3Ω程度」の内部インピーダンスで「0.1〜0.2mV」前後の出力電圧だったと記憶していますが、これを「0.4〜0.5mV」は欲しいというのです。
それを満足するためには「コイルを巻き込む」以外に対応する手段が見つからなかったものの、この方法では当然導線の細いものでなければ巻けないし、内部損失も高くなり「低インピーダンス/低損失」とは逆行する事になります。
しかし、それを承知で何とか高磁力のマグネットを探し、コイルを5〜6Ωまで巻いて「0.4〜0.5mV」を稼いだ事もありましたが、それなりにいい音がしたものでした。
そしてこの頃から「低インピーダンスで必要な電圧を得る」には何が必要だろうか・? という思いで、確かな当てもないまま高性能の磁性材料探しに取り組んでいましたが、ちょうどその頃、あるメーカーのトーンアームとカートリッジの「音決め」の場で出会った、故・冨田 嘉和氏に、MCカートリッジで「低インピーダンスで出来るだけ高出力」が欲しいと言われてるけど・!という話をしたら、「それは当然でしょう・!」と言うのです。
当時の入力ソース(音源)の殆どは「アナログ・ディスク」主体であり、アンプにとっては、カートリッジで効率よくダイナミック・レンジを稼ぐことが大事で「出力電圧が高くて、Saurce側インピーダンスは下げる事が重要なんだヨ・!」と言われ、これが更なる後押しにはなったものの、結局「磁気回路を工夫する以外に方法がないね・・!」という結論になったのです。
ところがこの頃からマグネットは「希土類(サマリウム・コバルトなど)」の普及の時期になり、不十分ながら小型高性能化に拍車が掛かって「カートリッジのエネルギーUP」が期待されましたが、出力電圧は期待したほど向上しなかったのです。
つまり、強力マグネットで磁束密度が高くなっても、これを受け渡しする「コア材の磁気飽和」という問題の解決ができなかったのです。
従来からこの「コア材」には「純鉄やパーマロイC(PC)」を採用するのが一般的ですが、「純鉄は飽和磁束密度(Bs)は高い(Bs=2.15T)が、初透磁率(μi)が低く(μi=300)磁気歪みが大きい事、一方パーマロイC(PC)は初透磁率が高く(μi=30,000以上)磁気歪みは小さいが、飽和磁束密度が低い(Bs=0.65T以上)ため出力エネルギーに限界があるというのが、コア(鉄芯)入りMCカートリッジの課題なのです。
ただ、他の磁性材料もこの両特性の同時解決は難しく「飽和するからムリ・!」というのが当然視されていたものです。
もとより比較的効率よく出力エネルギーを稼ぐなら純鉄やパーメンジュールなどの「Bs」の高い材料は有利ですが、MCカートリッジのコアは「交流磁界」での動作であるため「μi」の低い材料は「磁気歪み」が大きくなるところが問題で、加えてパーメンジュールなどの場合は「バルクハウゼン・ノイズ」も音質にかかわります。
そこで「μi」の高い「PC」をベースにして何とか「Bs」の向上は図れ無いものだろうかとの思いから、「特注出来るかも知れない・・!」との発想で、磁性材料開発のスペシャリストに相談することにしたのです。
それは知人でMCトランス用コア材の特性向上に熱心に取り組んでいる人がいて、かなり「μi」特性の優れたコア材が出来ていた(後の・PC-SX)からで、それが出来るなら「カートリッジ用のコア」も出来るかも知れない・? と考えたわけです。
このトランス用コア材(PC-SX)は「μi=270,000」という超「Hi-μi」を誇っていますが「Bs」は「PC」に対して「20〜30%」程度のUPというのです。
しかしこの程度の改善では「カートリッジ」の出力電圧の場合、期待したほど大きな向上は見込めず、組み立て誤差の範囲と大差ないのではないか・? との思いから、「Bs」はせめて「2倍〜3倍」程度の改善がないと効果は分り難いかも知れないと考えて、更なる向上に取り組んでいたのです。
ところが「二兎追うものは・・!」のたとえの通り、かなり難しい世界に迷い込んでしまったのです。
以来「Hi-μi/Hi-Bs」を求めて試行錯誤を繰り返すなかから、「μi」は多少低下しても、可能な限り「BsのUP」に力点を置くことにしたわけです。
とはいっても「μi」もあるレベルをキープしないと磁気歪みの改善がおぼつかない! などが難問として浮かびあがってきたのです。
こうして「μi/Bs」共に改善する事が極めて難しい課題であることが分って来たところで双方に折り合いを付け、出来たテスト品が後に「SH-μX」と命名することになった「データー」に到達していたというわけです。
考えてみると磁気特性などに無知であるがゆえに、無謀と思える発想で始めてから、20数年掛かったことになりますが、この段階ではまだ実装テストをしていないため「確信」には至らなかったのです。
しかも、時代は’90年代後半という「デジタル・オーディオの最盛期」を迎えて、会社で「カートリッジのテストをして見たい・!」といっても、「今更アナログでもないでしょう・!」と言われ、もともと営業的課題で進めた研究でもない(いわば個人的コダワリ)ため、納得せざるを得なかったわけですが、それでも「良くここまで出来たものだ・!」の反面「遅すぎたナ・!」との思いが交錯したものでした。
しかし、その内「機会があれば・!」と思いながらも「陽の目」を見ることはなく時が過ぎて、退職する日がきたわけですが、その「コダワリの研究結果」が実を結ばないという未練を残しながらも、2000年の退職となったのです。
ところが、退職後に受けた検診で予期せぬ「病巣」が見つかり「入院・手術」などというアクシデントに見舞われ、不慣れな病院生活のなかで、今後の人生のあれこれを考えるうちに、例のテストの出来なかったあの「コア材の結果を見てみたい・!」(これも病気かナ・??)と思いたったのです。
今度こそ廻りを気にすることもなく、自己責任で進めることが出来るとの思いと不安とを抱きながらも、退院後にリハビリ代わりで書いた殴り書きの図面も「悪いハズは無いだろう・!」が後押ししたものでした。
このような磁気特性に「コダワル」のは、Hi-Bsでは大振幅時のクリッピング・レベルが高いため、少巻線でも出力レベルが高く採れて内部損失が少なくて済むこと、Hi-μiでは微小信号への感応速度が速く弱音領域の動作に優れて磁気歪みが小さくリンギングが微小となるため聴感上の「S/N比」が格段に向上すること。
つまり、立ち上がり(μi)が速いということは、S極/N極反転時の磁気歪みが僅少となるわけです。
従って少巻線により位相特性に優れ、低内部損失によりエネルギー損失が少なく、微少領域から大振幅まで全帯域に渡り、低歪み且つ高エネルギー出力が得られるという、これぞ「広ダイナミック・レンジ」の本質であり「Sourceインピーダンスは低く・出力エネルギーは高く・・!」という、「信号源の基本的な条件」と考えるからです。
この「低インピーダンス・高エネルギー出力」の結果は、とかく混濁しがちな重低音の解像度と力感の改善はもとより、全帯域の分解能が明解でナチュラルな再現性に特長的に現れていますが、それは「コア材=SH-μX」の磁気特性により得られた何にも代えがたい特長です。
この長年かけて作りあげた{SH-μX」で試作した時の初期「Eminent」のプロト・タイプの「音」が出た時初めて交流理論の本質(信号源のあり方)に「コダワリ」の、あの「先達」の助言が理解できたように思ったものです。
この「Eminent」の発売以来、My Sonic は「Sourceインピーダンスは低く・出力エネルギーは高く・・!」をモットーとして、カートリッジ作りを進め、「1Ω」前後の内部インピーダンスで「0.3〜0.5mV」の製品をラインナップしていますが、それぞれの製品が特長的で、他では表現できない「低インピーダンス/高エネルギー出力」の緻密かつ明解で力強いサウンドを聞かせることができるのです。
しかし、現在手持ちの「SH-μX」以上の磁性材料が他に在るのか、または出来るのか(MCカートリッジに使えるのか・?)は分りませんが、研究段階の苦心・?(既に本人の話が聞けないので・・)を考えると簡単ではないようです・・!
この「SH-μX」はいわば実験室の延長で出来た素材であり、稀に見る「貴重品」ではありますが、その発端をいえば彼の「大先達」に度々指摘された「低インピーダンスと高エネルギー出力と磁気回路云々・!」に由来するもので、その磁気特性への無知な相談に付き合ってくれた、ある意味で物好きな「磁性材料開発の研究者」との運命的なめぐり合わせが無ければ「出来ないヨ・・!」で終わっていた話であり、さらに「退職と入院」という考える時間が無ければ、埋もれていたかも知れないという際どい話でもあったのです。

◆「Bs/μi」はJISの規定による
  「Bs=T=テスラ」・「μi=初期チャージ電流に対する感応磁束密度」

代表的な磁性材とマイソニックラボの特殊材の比較
材 料 名 飽和磁束密度(BS)
〈テスラ=T〉
初透磁率(μi)
・パーメンジュール 2.4 650
・純 鉄 2.15 300
・センダスト(Tokin=SD) 1.1 30,000
・パーマロイB(PB) 1.5 4,500
・パーマロイC(PC)(Tokin=TMC) ★0.65以上 30,000以上
SH−μX ★1.5 100,000
PC−SXII ★0.85 290,000
(磁性材の前についている「・」は東北金属(株)ほか2社の当時のカタログを参照したものです)

PC・MTC・SH-μX・PC-SX は磁化力(H)=0.005(Oe=エルステッド)が「μi」の算出基準(JIS)
★印以外の磁性材料(Feその他)は磁化力(H)=0.01(Oe=エルステッド)が「μi」の算出基準(JIS)
◆例:SH-μXを逆算すると 100,000(μi)×0.005(Oe)=500(Gauss=磁束密度)